■帰国後1年の総括。

「多分、いろんな試行錯誤の中で失敗することもあろうかと思います。是非、皆様にも御寛容を願いたいと思っております。何せまだ、ある意味での未知との遭遇で、経験のない世界に飛び込んでまいります」 就任記者会見で鳩山総理がそう述べた2009年9月16日、私は10年ぶりに日本に帰国した。あれから1年経った、のだなあ。

民主党と同様、「帰国してすぐに株式会社を設立し、輸入業をバリバリ行って、社会のレールから外れてばかりの私たちをハラハラ見守る両親を安心させる」というマニフェストは早い段階で実現の困難なことが明らかとなり、家族や周囲のみなさまを大いに失望させてしまいました。

そこからの1年を、ほとほと傍迷惑ではございますが、振り返ってまいります。


意欲に燃えて帰国した9月は、散歩に連れ出してくれた祖母にたいして「アブ!(スペイン語で「おばあちゃん」=アブエラ) ミラ(「見て」)、マリポシャ!(「ちょうちょ」)」としか言えずに祖父母を困惑させていた娘(当時2歳9ヶ月)と日本語のリハビリに努めながら、ともかく役所で、あまりの前例のなさに困惑されながらも、日本の市民としてのさまざまな登録を済ませました。和歌山から紀州路快速に乗って片道2時間半、神戸の六甲アイランドまで起業相談にも通ったものです。

10月、娘の顔を1週間も見られないような状況に三宮駅前で号泣したりしながら、岡本駅前ピタットハウスの西岡さんのご尽力をいただき、なんとか神戸への引越しを済ませました。
11月、その後なにかとご迷惑をおかけし、何度も支えられることになる、芦屋オブリコルールの光安さんと出会い、12月は娘の保育園が始まり、1月は起業セミナーで現実を直視し、あまりの厳しさに砕けた腰を整体の三宅先生に診ていただくようになり、2月は合気道と甲南麻雀連盟に入門して、晴れて名実ともに「内田樹門下生」に。

そういえば「日本のママを楽にする」mamacomodaプロジェクトを思いついたのも、この冬でした。古来より寒い冬は、土の下で生命が「増ゆ」季節だと申しますもの。とはいえ、どうしても起業が思い通りにいかない。「社長」(←まだなってないし)とのパートナーシップの解消も、何度も頭をよぎりました。しかし、そもそもなんのために帰国したのか。それは、娘という小さくて可愛らしい命と過ごす時間を最大限に楽しむため、「家族」としていちばんいいかたちの生活をもう一度ゼロから築くためではなかったか。「私どもはそのような思いの中で、連立政権を樹立をする決意を固めた次第でございます。」なんてね。

そういえば今年は4月1日に、部屋から見える六甲山が雪化粧となる、寒い春でした。3月から5月は、mamacomodaプロジェクトの一環であり、2年越しの懸案でもあった、スペインの育児本の翻訳に没頭。ありがたいことに、日本での出版が決まりました(2011年3月予定)。


しかし肝心の起業の方がずっぽり暗礁に乗り上げていた6月2日、ああ、ついに鳩山総理が辞任。この時期は私もまた、かなり追い詰められていました。「残念なことに、そのような私のしっかりとした(つもりの)仕事が、必ずしも家族の心に映っていません(たぶん)。オットには『お前も合気道に麻雀にと遊んでいるばかり』と言われ、娘には『ママ、遊ぼう。ニーニャ、さみちいの』と言われ。家族が徐々に徐々に聞く耳を持たなくなってきてしまった。そのことは残念でなりませんし、まさにそれは私の不徳のいたすところ。そのように思っています」なんて愚痴りたくもなるくらい。

でも私は辞任するわけにはいかない。ここはいっちょ、思い切って無謀なことをやってみよう。どうせ、「やるべきこと」なんてないのだから。ということで、mamacomodaプロジェクトの次の大きな目標である「ウェブマガジン創刊」のためのスキルを身につけるため、決意の大出費をして、PCスクールに通うことに。しかし7月、またしてもギックリ腰となり、我が家も普天間問題並みの泥沼に陥ります。くぅ〜、辛いねぇ。やはり連立政権は解消か、あるいは後継者を探し出して思い切って辞任するべか。

しかしちょうどこの時期に、スペインや東京のいちばん親しい友人たちが次々と神戸に遊びに来てくれました。スペインや高田馬場での時間を共有してきた彼ら彼女らと一緒に過ごすうち、なんだか「底」を脱したみたい。


というわけで、長く厳しい残暑の果てにようやく涼風が吹き始めた2010年9月中旬。代表選も終えて決意を新たにし、挙党態勢でやるっきゃない(おタカさんね、って、わっかんねえだろうなあ)とハラを括った日本再移住ファースト・アニバーサリーの、近況報告をいたします。

○NINACOMODA
:「英語のメールだから読んでなかった」「会社のバケーションは終わったけど、私が個人的に旅行中だった」と、当然のようにしばしば音信不通になるスペインの取引先との交渉も佳境に。これは「社長」が全面的に担当。今日は銀行へ、口座開設の相談へ行く予定。クレジットカード、作らせてくれるかなあ。

○mamacomodaウェブ
:来週いっぱいを目処に、メインコンテンツ以外を完成させる予定。メインコンテンツとなるインタビューの初回分も、すでに快諾をいただいた。内容も、いろいろ話しながらだいぶ煮詰まってきたところ。シリーズの仮タイトルは「クロマニョン基礎講座」。治療のたびにお話が伺えるんだから、楽させてもらってます(ハッ)。ここまできたら焦らないけど、目標は10月公開。できればPDFファイルも用意したく、同時にInDesignを自習することに。ほんとうはインタビュー映像の配信もしたいのだけどね〜。ま、ぼちぼちやるしかないね。生身の身体でやってんだから。

○mamacomoda翻訳
:スペイン育児本の翻訳、チェッカーを担当してくださるマジョルカ在住の佐々木いずみさんから、どんどん訂正稿が届く。これが、素晴らしい! 読むたびに、私の粗雑な文章が、スラリと美しく優しい文章になっていることに、大感激。仕事はやっぱりひとりでやるもんじゃない、と、震えるような思いとともに、再確認。

○「ぼくには夢があります」
:ええ、持病もありますけどね。小説、書いてます。夜中に。完成予定は3月。これで賞を獲れなかったら、もうやめる! 覚悟ではありまっす。

○「愛は生きているうちに」
:麻雀、やってます。合気道、やってます(今週末は合宿だ〜)。サックス、再開したく、リードを購入。早くもうちのバンドでちびっと吹いてみない? というお誘いが2件。ど下手なのに! やれるだけ、やってみます。Get It While You Can、もし誰かがやってきて/あなたに愛を与えてくれるなら/できるうちに手に入れなさい……


▽リファレンス

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

・『坂の上の雲』くらい面白い。いやもっと面白い。歴史とはなにか。ゲティスバーグ演説日本国憲法前文の共通点は。なぜ共通するのか……。面白いです。


コンピュータのひみつ

コンピュータのひみつ

・いまから読むのだけど、面白いに決まってるので、先に紹介。「なぜ“計算”で音楽が聴けるのか。そもそも、なぜ“計算”できるのか」、そんな「コンピュータの肝」を、同年代の最高の知識人・山本貴光さんが解説してくれるのだから。私が、及ばないながら「クロマニョン基礎講座」(仮)でやろうとしているのも、そういうことなんです。