■「なんだ、死なないじゃん」、超絶寿司、村上春樹。

余命2年、ということになるのだろうか。去年8月にステージIVの乳がんが発覚、ペシミストな医師に「余命3〜4年、5年後生存率10%未満」と宣言された親友が、今週、スペインから一時帰国の途中に遊びにきていた。
てやんでえ。こちとら過去のデータの中ではなく、誰も知らない未来を一歩一歩進んでいる生き物でい! 30代の彼女はスペインに戻って最新の治療を受け(日本未認可の分子標的薬を含む)、同時に自ら学んで食事療法もはじめ(玄米中心、乳製品・四足動物の肉はやめる、精製された砂糖もできるだけ避ける…などなど)、さらには世界各地の友人たちによるレイキや気功やカトリック的礼拝やイスラム教的礼拝や神仏融合的礼拝や、家族と友人の愛なんかを受けて、頑張った。
そうして乳がんはほぼ死滅して小さくなり、(例のペシミストな医師からは不可能と断言された)手術で、ぶじ摘出された。転移済みのぶんも、成長はストップしているらしい。直前にロンドンで有名な気功家に施療してもらってきた彼女は、ぴっちぴちに元気だった(暑さにバテてたけど)。

昨日は彼女の誕生日。三重から駆けつけてきてくれた友人と、うちでお祝いをした。たぶん、これから先の人生で、何十回も、彼女は誕生日ケーキに立てられたローソクの炎を吹き消すだろう。11歳の彼女の娘が大きく美しく育つのを、間近で眺めるだろう。2年後の誕生日、「なんだ、死なないじゃん!」と笑わなくっちゃね。ノストラダムスが予言した(とマスコミが大騒ぎした)、そして見事になにもなかった、あの日のように。


いろいろと兄弟子にあたる芦屋オブリコルールの神業美容師・光安オーナー(今日の午後、カット&カラーお願いします)が、彼女と私を、苦楽園の寿司屋に連れて行ってくれた。そらもう、宇宙一旨い寿司で、「これまで食べてた、あれは『おにぎり』やったんや……」と愕然とし、「ほんまもんの寿司を知らなかったボクの甘く切ないティーンネイジ・ドリーム」と惜別する涙が思わず流れるほどだった。
その若い大将が、いい魚を仕入れることについて、教えてくれた。
「文句言わんことですわ。値段を聞かん、文句言わん。そのかわり、ほんまにええ魚をもらったときには、必ず褒めます。相手も、それでわかります」
そうして、いまいちやと思った魚は、惜しまずほかしてしまう。これを食べたお客さんが、また来てくれるか。常にそのレベルに達したものだけを、出し続けている。それにしても、旨い。直前まで長崎の実家で、自分で釣ったのをはじめ新鮮そのものの旬の魚を食べ続けた舌で味わっても、こう、隔絶した旨さだ。「でも素材以上に、やっぱり腕が、」 そう私が言うと大将は、「いや、極力なんもせんことですわ。入れる包丁の数を、できるだけ少なく。私、なんもしてません」と笑った。


うーむ。ここで思い出した話が、ふたつ。ひとつは、村上春樹の話。「考える人」2010年夏号のロングインタビューで。小説の自動性。違うかな。小説は自らが運動するものであるということ。いやそれは高橋源一郎もいつも言っているのだけど。それこそ、いちばん大切な、我が子の生命を賭してまで。
彼ら(苦楽園の寿司屋の大将と村上春樹高橋源一郎)は、とことん謙虚である。違うな。とことん敬虔である。違うかな。畏れを抱いている。より大きなものに。敬意を払っている。でありながら、萎縮しない。自分を卑下しない。どん、と、全存在を開く。そこに大きなものが降りてくる。それを、そうっと、細心の注意を払った、繊細な手さばきで、私たちのもとへと、差し出してくれる。受け手への「愛」とともに、といってもいいのかも。


ここでつながる話が、もうひとつ。長くてごめんね。同じ「考える人」の、内田樹さんと元ラグビー日本代表平尾剛さんの対談。「愛情のあるパス」というものがあるということ。

取ってほしい相手のことを考えながら出したパスは、取った瞬間軽く感じられるんです。ボールの速度とか重量は関係なくて、気持ちのこもったパスだと本当にキャッチしやすくて、次のプレーにスムーズに移行できる。何より「託された」感があるんです。(p173、「日本の身体」より)

乳がん「だった」彼女がロンドンで会った気功家も、こう言っていたという。「気を出すのは簡単。ただそれを自分の中から出そうとすると、身体を壊す(ときには死んじゃう)。そうではなくて、もっと大きなものとつながり、それを『通す』のだ」と。

しっかりと大きなものへの畏れをもってパスを受け取り、それを自分なりの精いっぱいの受け手への愛情とともにパスを送り出す、サウイフモノニ、ワタシハナリタイ、な〜。
などと思いながら、「ニポンのママを楽にするミニメディア」を準備中です。


<追記> 先週は長崎に帰省中で、そしてその前はワールドカップでスペインが優勝した日、参院選の投票に家を出たところでフィジカルにもメンタルにも腰が砕け、長らく寝込んでおりました。たいへんご無沙汰いたしました。おかげさまでだいぶ元気になりました。3歳の娘も私にパンツを穿かせてくれたりして、すっかり介護デビューを果たしました。みなさまに、心よりお礼を申し上げます。


【今日の社長】 スペインの某メーカーに、ついにトライアルオーダーを出す。が、1週間経てど返事がない。念のため確認のメールをすると、「英語で書いてあったから、わかんなかった」とのこと。そして明日からは会社全体が夏休み。ああ、スペインって……。&長崎までの帰省、片道730kmの運転、お疲れさま〜。


▽リファレンス

考える人 2010年 08月号 [雑誌]

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現代人の祈り―呪いと祝い

現代人の祈り―呪いと祝い


古々屋:小・中学校の同級生のあいちゃんが、古民家ですてき〜な着物屋さんをしてます。場所は、諫早よりの大村。帰省時に襲撃し、22年ぶりの再会。私もあいちゃんの見立てで、浴衣や単の着物、買ってきました。帯どめの楽しさも教えてもらっちゃった。あいちゃん、リョウコさん、みなさんありがとう!

おばま動物病院:高校時代の同級生のあやみちゃん夫妻の動物病院。場所は諫早から小浜に降りて右手、ローソンの手前。初診時にはワンちゃんの記念写真もプレゼントしてくれます。どうぞご贔屓に。