■ ウソペディア、損益無計算書、マル秘ディスカッション。

故郷長崎の誇るスター・福山雅治、ではなく蛭子能収、を年初に詣でて一年のギャンブルと商売の成功を祈念する祭のことを、「えべっさん」と呼ぶ。ウソペディア。もちろん正しくは、福の神の「えびす様」に商売繁盛を祈願する「十日えびす」のことであり、えびす宮総本社の西宮神社には毎年100万人を超す参拝者が押し寄せる。まぁ、阪神間の商売人にとっての「メッカ」のような場所だんな。へぇそうでっか。

というのを知ったのは、赤い鯛が揺れる福笹(小、1,000円也)を手にほうほうの体で帰宅した後のこと。先週末の3連休、「そういや『えべっさん』やな。西宮やったらすぐやし、せっかくやから行ってみる?」と「社長」が何気なく提案したのに、私が「じゃ縁日とか出てる? 『はしまきお好み焼き』食べたい!」と見当違いの好反応。3歳の娘の手を引いてごく気軽に出かけてみれば、さすが100万人の人出。ずらりと立ち並ぶ縁日の屋台にも、迂闊に立ち止まれないほどの人混み。こりゃ、小学生の時リンリンカンカンを見に行った上野動物園のパンダ舎前以来の、大渋滞だ。ご利用は計画的に、ってやつだな。ジャン。

とはいえ、起業準備中の私たち、気合いを入れ直してなんとか「えべっさん」にご参拝。なにとぞ、まずは今年いっぱいぶじ生き延びれますように。それから福笹を買い、ついでに私も運試しと赤い鯛のおみくじを選んでいると、横から娘が手を伸ばして「こえ! こえがいい!」とむんずとつかんでご指定。仕方なくそれを買い、しぶしぶ開ければなんと大吉。あらま。年初の「社長」に続き、娘も大吉とは。やっぱり今年はふたりについていきます。


今週土曜は、保育園に娘の臨時保育をお願いして、私たちは神戸SOHOプラザ主催「事業計画書作成セミナー(実践編)」へ。今回初めて教えていただく講師の先生は、中小企業診断士さん。こういう講座の経験が長いということで、さすがに話がすごくお上手。内田樹先生がよく話す、「効果的なメタ・メッセージの挿入」*1の好例。説明の合間に、おもしろい余談を交え、こちらに質問をふり、わざと間違った方向に導いてから思わぬ方へ落とし、随所に「なーに言ってんだこいつは、と思ってるでしょ? それでいいんです。こんな奴の言うことを信じてるようじゃダメですよ、アハハ」などと、全員の意識が再集結できる「プラットフォーム」を築く。プロだなぁ。予備校の人気講師の授業を思い出した。

そんな「余談」として教えてもらったことのひとつ。創業後まず最初に「詰まる」のは、お金。これをクリアした後の、次の「詰まり」は、客の確保。これもクリアし、金もまわるようになった、客も集まるようになった、つまりビジネスとしてのベースができたところで訪れる最後の「詰まり」がある。それは、人間関係。「どの起業された会社も一度は経験していると思いますが、ある時、社員が一斉に辞める。そういう時がきます」。これはたしかに、私自身が「社員」として思い当たるふしがある。その原因は、価値観の共有ができなかったことだという。そうかも。


もうひとつ学んだこと。事業計画によって自己分析をする、アンバランスさを知る。それによって立ち位置を明確にして、「相談できるひとがいるかどうか」を冷静に検討する。それが大事。「営業力にすぐれたひとは、だいたい金の計算ができない。それでいいんです。人間、スーパーマンじゃないんですから。大切なのは、どこが自分に足りないかを知り、どうやってそれを補完してくれるひとを確保するか、ということです」 なーるほーどねー。

ちなみに私は完全営業型。ビジョンは語れても資金計画は無計画。一方の「社長」は完全経理型。出納の計算はできても画期的なアイディアは出てこない。なのでふたりで見積損益計算書を作っていると、私は「だから売上伸ばせばいいんじゃん。1日100個売れば、1ヶ月で3千個。いけるべ? え、いけない? じゃあ1日200個売る方法を考えようよ」とホラばかりプープー吹き、「社長」は「だいたいそんなに売れるわけないんだから、売れても1日50個がいいとこだって。そんで1カ月、ちゃんと土日休んで22日として1100個。そこから経費を引いて残るのはこんだけ。な? だからもっと経費を削んないと。今日から昼飯の食費はひとり200円な」となる。

ふたりで一緒にやっていることで、若干(おうおうにしてたくさん)のストレスというリスクを抱える一方で、ひとりだけで突っ走ってクラッシュする「デインジャー」を避けている、のかもしれない。でも、なんせまだ修羅場に追い込まれてないけん、ほんとはどうだかわからんけどね。


ともかく、こうして前半は事業計画書作成時のキモを説明していただき、後半は各々作成した事業計画書をもとに、グループ別にディスカッションを行った。「起業間近(あるいはつい最近起業)」というだけの共通項で集まったのは、想像をはるかに超えた異業種の方々。いずれも起業を志すくらいだからちょっと変りもので、思いというか思い込みがアチアチで、えらくおもしろいディスカッションになる。ただし、ここでの話はすべてマル秘という約束なのでご紹介できない。すごく残念。

2週間後には、練り直した事業計画書をもとにして、4時間にわたるディスカッションがある。今度は、ちょっとまともなものを用意して行かねば。同時に、そろそろシャドーボクシングにも飽きたので、実社会というか世間の(おそらくびゅうびゅう冷たい)風に当たるため、来週は積極的に外に出ることに決める。まずは税務署。「トップラス麻雀」の私、「万年2着、ただし場代を払うと結局マイナス」の「社長」のどちらも不得手な税金関係の情報を仕入れるのもおおきな狙いだが、最大の目的は、事業者登録をすること。登録後は、「社長」のカギカッコを外します。乞うご期待!


【今週の社長】
 阪神淡路大震災の特別番組を見て、涙。神戸市東灘区。私たちがいま住んでいるのは、まさにあの廃墟の上なのだ。まったく想像できない、きっと理解できない、でもできるだけ知りたい、この土地の歴史。「後からやってきた者」として、心から、合掌。娘が「社長」の涙を指差し、「なんでまん丸の、出てくるんだー?」 君みたいなやや子の命が数多く喪われたことを思って、だよ。


▽リファレンス


・「本えびす」の日の西宮神社。帰り道、ぶじにはしまきお好み焼き食べました。12年前に千々石の橘神社で食べて以来だったけど、きょうび一般的?



・福笹を買う。えべっさんというか、べっぴんさんのご尊顔を拝見してハッピー。受け取っているのは我が家の稼ぎ頭なる、3歳の娘。今後も、頼む!

*1: メタ・メッセージについて:メッセージには「一義的でなければ困るメッセージ」と「多義的解釈に開かれているメッセージ」の二種類がある。メッセージの「読み方を指示する」すべてのメッセージは一義的に、すなわち額面通り、字面の通りに受け取られなければならない。(中略)このあらゆる言語的コミュニケーションを基礎づけ、条件づけるメッセージのことを「メタ・メッセージ」というのである。 「日本語による創造とは」、09年5月25日付の内田樹研究室より。