■ 至福ライヴ、神戸市民、六甲山に手を合わせ

日曜は京都国際マンガミュージアムにて、スペインで居住中にヴァーチャル弟子入りした現代思想家の内田樹先生と、養老孟司先生との対談を拝聴。ちょうど日本帰国直前に読んでいたのが、養老先生の『身体の文学史』(新潮文庫)。そしてもちろん、内田師匠の本は入手可能な限りすべて拝読している。というわけで、私にとっては「レノンとポールとライヴ」くらいクラクラうれしいイベント。引っ越して3週間、ようやく落ち着いてきた神戸は岡本の自宅から、いそいそと秋の京都へ。なんと、1時間もかからない。関西って、近いんだなあ。

今回この「至福ライヴ」に付き合ってくださったのは、友人で、医師の本田美和子さん。9.11を現場で体験したこともあったフィラデルフィアからの帰国後は東京在住で、現在は国立国際医療センター戸山病院のHIV治療・研究開発センター外来医長。ちょうど先週は神戸でレクチャーのお仕事があり、こちらにいらっしゃっていた。彼女は、趣味の昼寝もろくにできないくらい、その柔らかで温かな智慧と知識と経験とを、惜しむことなく差し出され続けている。いちばん最近の「贈り物」のひとつが、『Dear DoctorS ほぼ日の健康手帳』。また、「ホームレスが売る雑誌」として知られる「ビッグイシュー」12月号のゲスト編集長もされています。どちらも、本田さんの思いがぎゅっと詰まったもの。よろしければ、ぜひお手元に一冊どうぞ。ちょっと、でも確実に、ハッピーになります。


というわけで、10月19日から、神戸市民になってます。
ウィークデーはわりわりと引っ越し作業。なんせあてら海外からの引き揚げ者、家具も家電も、すべて新たに買わなければならない。だのに車もない。ないない尽くしの日本での再スタートに、しかし唯一あったのが、「縁」のよう。
初日の「責任もって探します」という言葉通り、無職な私たちにとことん親身になって契約を進めてくださった阪急岡本駅前P不動産の、さらに突き抜けて親切なN氏の場合。「失礼ですけど、アシ、ないですよね? もしご迷惑じゃなければ」と、引っ越し当日に車を出して、なんと一緒に家電量販店や家具店をまわってくださった。感涙。道中、地元出身の彼から聞いた震災の話も、よそから来た私たちにはなによりの「贈り物」。
或いは、携帯電話を買おうと入った岡本駅前の某ショップの、中国出身のIさん。「パケットってなあに? ワンセグとはハテサテ?」という惚けた私たちのために、すこぶる親懇切丁寧に、ときに際どい本音を交えつつ、商品説明をしてくださる。「ガイコクジン」同士でわかりあえることもあり、なによりも魅力的な方で、契約後、個人的に連絡先を交換。スペイン語を話す奥様とお目にかかる日も、そのうちあるかもしれない。

とはいえ、もちろんすべてがトントン拍子にいくわけもなく。電話会社のプロモーション料金適用に必要だったクレジットカードは、その会社発行のを皮切りに、ダイエーからヤマダ電機まで軒並み審査落ちをくらう。まあ、過去10年以上、日本に収入はおろか住所すらデータがないものね。わかっちゃいたけど、やはりこたえる。係の女性が「主婦でもだいじょうぶですから」と太鼓判を押してくれたダイエーもダメだったよぅ、「社長」!
帰宅後、思わずネットで、「クレジットカード 審査 甘い」という、実に怪しげな検索をかけてみる。某金融系のカードは90%以上通過ということだが、いまひとつ勇気が出ない。そこで思い出したのが、日本初の「クレジットカード」を発行した、たしか以前は電話加入権の売買もしていた、金融系百貨店。三宮まで出て申請すると、呆気なくその場で発行してくれた。私たちと同じように帰国してすぐの方、ひょっとしたらおすすめかもしれません。


引っ越してきたその週末からは3週連続で、SOHOプラザ主催「思いを具体化したい人のための創業セミナー」があった。ふたりで出席するため、毎週木曜に「社長」が娘を連れて実家の和歌山へ行き、月曜に迎えに行く。2時間半のセミナーに参加する「たったそれだけのこと」でも、家族の協力がないとできないことを、痛感。「心配いらんよ」と言ってくれる60代の親と、文句を言わない2歳の娘に支えられて、中年ふたりで汗を拭き拭き、ビジネスのイロハを学ぶ。

初回のテーマは、「自分と社会の状況を見つめる」。事業計画書を作ることを前提に、ワークを交えて、事業環境の分析方法など具体的な方法とその意味合いを学ぶ。第2回は、マーケティング。実はこれまで、「マーケティング」という語感には「小手先あるいは口先だけで商品を売ろうとする、セコい手口」というイメージがあって(←幼稚ですね)苦手だった。が、聞いてみれば、これはつまり、真心込めててがけた商品・サービスをちゃんとお客さんのところまで手渡すための、まっとうな努力に他ならなかった。かえって、「良い商品だから、勝手に売れる」という考えの方が、傲岸だと思い知る。なるほど。

そして最終回はずばり、「お金」の話。企業とは営利を目的とする、社会的存在(←私の定義)。しかしいかにここのところを本気で詰めていなかったかが空欄ばかりのワークシートを見ているとよくわかり、愕然とする。ああ、これからやらなければならないことが山のように……。しかし週明けて祖父母宅から戻ってきた娘はなにをするにも「マミ、見てて!」「マミ、こっち!」と私を呼び、メールチェックひとつする時間がない。もちろん娘は可愛い、さらにいまは不憫だ、しかし多くはない貯蓄を食いつぶすだけの日々に、きもちは焦るばかり。嗚呼、どうか保育園、奇跡的に欠員補充で決まってくれないだろうか! たのみます! ここにもどうかご縁がありますようにと、六甲山に手を合わせる日々。


【今日の社長】
冷蔵庫とテレビの「エコポイント」申請用紙を投函。スペインでも噂には聞いていたのだが、実際にやってみてはじめてわかること、多し。日本の市場トレンド分析までキャッチアップする日は、果たしていつ頃になるのだろうか。


▽リファレンス

身体の文学史 (新潮文庫)

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こんな日本でよかったね─構造主義的日本論 (木星叢書)

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エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します

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