■ 小鍋におたま、フィラデルフィアで迷子、交換ではなく贈与。

今朝5時半、3歳になったばかりの娘に起こされた。子どもに土日は関係ない。という事情はあまねく知れ渡っているのだろう、朝6時から「アンパンマン」が放映中だった。なーるほど。スペインではこの時間帯、まだ深夜映画の最後のあたりで、ラテン男女がボカシなしの肉体を絡ませてデロデロやっていたのだが。

そんな、日本の日曜の朝らしい「アンパン」後、朝食を準備しながらチャンネルをこっそりCATVにあわせてみる。あ、麻雀やってる。女流モンド21杯、カップ戦らしい。あ、ちさとさん(田中智紗都)だ。あ、清水(清水香織)だ。そう、あれは昔々のこと。高田馬場に、「ポリエステル100%」という「元祖・ギャル雀」(女の子がメンバーをつとめる雀荘のこと)があった。ここで私は、大学2年の初夏から週6日ほど、バイトしていた。ちさとさんも清水も、ここのメンバー。みんな、ちゃんと頑張ってるんだなあ。
やはり当時のメンバーで、漫画『だめんず・うぉ〜か〜』(倉田真由美)の「ヨーコ会長」としても知られる渡辺洋香プロは、スペインにいる間もメールしたり本を送ってくれたり、また05年の私の本『情熱とサッカーボールを抱きしめて』(フィールドワイ)の出版記念パーティーに駆けつけてくれたりもした。当時から誰よりも真剣に麻雀を打っていた彼女、いま新宿で禁煙雀荘「fairy」をやってます。どうぞご贔屓に。そんでもって、いちばんの腐れ縁で大好きな「美女の野獣」Iは、新宿で会員制バーを経営中らしい。昨年末スペインに来たときは、当時のメンバーや常連さんの寄せ書きをもってきてくれた。近いうち行かなくては、「社長」と一緒に。なんせ「社長」と出逢った場所こそ、この雀荘。♪あれは3年前(ウソ、17年前です)、私のバイト初日の、その初めての半荘で、ふたりはカミシモに座ったのよね。


さて、思い返せば9月下旬に帰国して、約1ヵ月後に神戸に引越しをしたのでした。これでようやく落ち着くかと思いきや、そこから最低限の家具や家電が揃い、ふつうに朝食を摂り、風呂に入り、心地よく寝れるまで、さらに1ヶ月かかってしまった。日常とは、なんと細々とした多くのものに支えられているものであることよ、と再認識した次第。だってさ、玉子焼きひとつ美味しくいただくにも、玉子と砂糖と塩と醤油と日本酒と油と、ボウルと菜箸と、できればフライ返しと玉子焼きフライパンと、それに人数分の適当な大きさの皿と箸とが、最低限必要なのだからして。うちの場合は、それに、子ども用スプーンなんかも必要。加えて日本人の必須アミノ酸をあまねく摂取すべくおみおつけなんぞつけようもんなら、小鍋におたま、昆布に鰹節に味噌にネギにお豆腐あたりがゾロゾロと必要になる。つまりはそのあたりが整うまで、引越し後に1ヶ月がかかったのだ。それからさらに半月が経ち、しかしまだ、味噌こしを買う余裕はありません。

ともかくこうしてひとまず落ち着いた11月中旬、「いましかない」と俄然思い立って、長崎の私の実家に帰省。実家へは、日本に帰ってから電話したのも数回だけ。多忙を言い訳に無沙汰を決め込みつつも、帰国した孫にゆっくり会うのを70代になった両親が心待ちにしているのは、痛いほどわかっていた。そこに、前回紹介した本田美和子さんの個人的なアドバイスと、それと縁起でもないが「孝行したいときには」という成句が、背中をどんと押してくれた。ことばが「在る」にはとてつもない理由があるのだ、きっと。
伊丹から乗り込んだ長崎行の飛行機は約50人乗り。ひゃー、小さい! しかも日本国内線では、乳幼児のシートベルトはない。欧州では、体験した限り、膝に抱っこする乳幼児にも小さいベルトを、親のシートベルトに通すかたちで必ずつけさせていた。つまり、8の字の、大きな○に親が、小さな○に子どもが入る格好。それに慣れていたので、フリーハンドで子を膝に抱いているのが、えらく不安。おもちゃとか絵本とかはいいから(すごくうれしいけど)、子ども用のシートベルトと酸素マスクをきちんと用意して欲しいなあ。それとも、料金を払わない客は安全保障しませんよ、ということだろうか。日本はすごく資本主義マインドだからして。

長崎では、浜辺で憩うペンギンを見たり(長崎ペンギン水族館)、釣りをしたり(娘がアジゴ3匹釣った!、久々の有明海のカキ焼きを満喫したり。翌週には、金婚式を迎える両親を神戸に招いて、紅葉の有馬温泉&三宮観光。元町には、15歳からマドロス(正確にはエンジニヤ、らしい)だった父が勤め上げた海運会社の本社があり、その思い出の場所を訪ねる。夜は杯を重ねながら、キューバ危機時に現地で海上封鎖された話、戦後すぐフィラデルフィアで迷子になったが敗戦国民に至極親切にされた話、パナマ運河の構造、船上麻雀のルールなどなどの面白すぎる話を聞く。
こうして時間的・金銭的にかなり無理しても動いたのが幸いしたのか、長崎にいる私たちに吉報が届いた。なんと急な欠員補充があり、「4月までは無理でしょう」と言われていた娘の保育所入所が、ほんとうに奇跡的に急遽決定。しかも最寄りの第一希望である。これはまったくの思い込みなのだが、私たちが「動いた」ことによって、あるいはエマニュエル・レヴィナス的な(おそらくちょっと間違った)表現をすれば「他者を招じるために譲った場所」という空間がぽっかりとできたことによって、恩恵(Gracia)が降りてきてくれたのではないか。そんな気がした。
交換ではなく贈与。キーワードはたぶん、これだ。


12月1日から保育所が始まったことで、ようやく、仕事をする時間ができる。まずは「社長」と、やるべき仕事のリストアップとプライオリティ付け、そして分担決め。12月のスケジュールというか目標が決まったところで、私は念願の美容院へ。行き先は芦屋、ちょうど11月に開店したばかりの「オ・ブリコルール」。au bricoleurとはクロード・レヴィ=ストロースが用いた、「手元にあるものだけを使って、工夫してええもんを作る」(意訳あるいは誤訳」という概念。店名どおり、哲学的・ロック的・合気道的・青年的・おっさん的な光安オーナーのことばと腕で、くしゃくしゃぼやぼやの頭をピッカピカにしていただく。それはもう驚愕の、最高の仕上がり。ああこれで、日本にいるあいだ、髪のことは憂いなしだ。店を出て、思わずスキップ。
ようし、なんだかまわり始めたぞ。唯一の問題は、まったく収入の目途が立たないことだな。うん。どーしよー。


【今日の社長】
美容院に行くツマを横目に、バリカンで丸刈りに。最初の12mmが「なんか中途半端」ということで、次に9mm、さらに6mmに。翌朝いきなり鼻声だったのは、やはり頭が冷えたのか? 今週は、神戸市SOHOプラザで知り合ったご夫婦のデザインラボに、ロゴと名刺作成の相談に伺う予定。


▽リファレンス

ヨーコ会長の恋愛勝負

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野生の思考

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・ツマがDellのオンラインキャンペーンで購入。(下のモデルで、メモリ4G、HD500G)。翌日出荷にすべく、パーティションをはじめて自分で切りました。緊張した!
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